バチーダ奏法|ボサノヴァ、サンバ ミュージックを語る上で欠かせないギター奏法。その秘訣に迫ります!

 

 

ブラジル音楽の基本にして、最大のテーマ、永遠の課題 

 

  バチーダ奏法

 


今回は特別アーティストを紹介するのではなく、ブラジル音楽が三度の飯より大好きというギタリストの為にプロ奏者になる為に、ひょっとしたら近道になるかもしれない秘訣をご紹介したいと思います。

 

そもそも バチーダ奏法とは


ジョアン・ジルベルトが編み出した奏法と言われています。その真偽についてはあまり興味はありませんが、長いギターの歴史の中でバチーダに見られるシンプルな奏法が古くから存在してたとしても不思議ではないと思います。

 

しかし、絶えずベース音をキープし、コードを奏で、独唱するというオールインワン・スタイルを完成させたと言う意味ではジョアン・ジルベルト独自のスタイルと言えるかもしれません。

 

指の物理的な運動能力の観点ではシンプルな奏法だと言えます。そもそも人間の指は3本(親指、人差し指、残りの3本)と言われています。生活する上で最も適した三つにまとめられてしまったそうです。

 

フラメンコギターなどは幼いころから特殊な訓練を積み、5本の指が全てバラバラ、且つ高速に動くようになるそうですが、バチーダにそのような能力は必要としません。

 

3本指どころか、2本指(親指とその他3本)で弾く訳ですから、40歳過ぎからでも何とか形になります。じゃあ簡単なのかと聞かれたら、それでも難しいと言わざるを得ません。そこにこの奏法の面白いところがあります。

 

バチーダ奏法を知らずにここまで読んで頂いた方の為に、バチーダの元祖と呼ばれるジョアン・ジルベルトの演奏をご紹介しましょう。

 

実はこれが私が最初にコピーした曲だったのです。

 

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Joao Gilbert (ジョアン・ジルベルト)

公開サイト検索キーワード Joao Gilberto - 13 - E Luxo So

ジョアン・ジルベルトの初期の作品を集めた歴史的名盤。完全主義者ジョアン・ジルベルトが追求した音楽がこの初期の作品に完全な形で収められていると言っても良い。私的には彼の最高傑作である。"E Luxo So"はブラジルの作曲家Ary Barrso
(アリ・バホーゾ)の作品で誰もが知る大変有名な曲。



 

 

バチーダ奏法その(1) 

 

 

どの音楽も基本の要素はメロディー、コーラス(和音)、リズムの三つだと言えます。今回のテーマはバチーダ奏法ですのでメロディーは横に置いときますと、コーラス(和音)、リズムの要素が残ります。

 

当たり前の話ですがバチーダの場合、和音は左手で押さえ、リズムは右手で弾きます。どちらの手が重要かと聞かれれば私はまず右手からと答えます。

 

何故ならいくら素晴らしいコードワークを身に着けても右手で最もの重要なリズムを刻めなけれ音楽になりません。逆に誰でも知っているコードでも右手でしっかりリズムがキメられれば、ちゃんとした音楽になるからです。

 

ダンス音楽から出発したブラジル音楽ではリズムが欠かせない要素で、聴衆は和音ではなくリズムを聴いて体を動かし、ダンスを踊ります。

 

そういった事からもリズムを主体とするバチーダ奏法にとってリズムが全て、命と言っても良いでしょう。

 

余談ですが、20世紀を代表するジャズ界のサックス奏者 マイケル・ブレッカーはチャーリー・パーカーをコピーする際、「フレーズよりもリズムをコピーしろ」と言ったそうです。

 

バチーダ奏法その(2) 基本テクニック

 

ブラジル音楽に限った事ではありませんが、リズムは譜面に書かれている単なるタイムではありません。メトロノームに合わせて正確にリズムを刻める能力と実際の音楽でドライブ感を表現出来る能力は別物と言ってよいでしょう。

 

ギターで弾きだすリズムの要素を分解して考えますと、どのタイミングで音を弾く?、どの位の強さで?、どこで音を切る?、どんなトーンで? に集約されると思います。

 

これらの要素は’アーティキュレーション’と呼ばれます。楽譜でも色々な符号で記述されていますが、決して記号でデジタルに表現できるものではありません。

 

トーンについては爪の形、長さ、弦を弾く角度などによって同じギター(個体)でも演奏者によって音が全く異なってきます。

 

これら全てが重要な要素で、プロのギター奏者は常に自身のパフォーマンスをフィードバックし訓練と感性によってブラシアップしていきます。

 

大変デリケートな問題ですがバチーダ奏法では命ともいえる部分です。言い換えればここをしっかり押さえればプロの演奏家に近ずけると言っても良いでしょう。実際には結構一筋縄ではいかない高いハードルですが、フラメンコやクラシックのようにある意味高度なテクニックを身につける必要はありません。

 

メトロノームを使って練習する場合、とかく早さを追求しがちですがむしろスローテンポでビートを出せるように練習されたらよいと思います。伴奏でバチーダする場合、スローテンポの方が遥かに難しく感じると思います。

 

メトロノームはテンポを出してくれる装置であって、テンポ感覚や、スピード能力を身につける上では役立ちますが、メトロノームに合わせていくら正確に弾けてもリズムを習得する事はできません。メトロノームの音が途切れたスペースに何を弾くか?ここが重要なポイントです。

 

誤解のないように左手の事も少し触れておきますが、”音を切る”動作では右手や左手のコンビネーションで音をミュートする事もあり、リズムの全てが右手に依存している訳ではありません。

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特に忘れがちなのは親指です。親指は右手の運動の一部位に考えている人も多いかと思います。大勢のユニットで演奏する場合はさほどこだわる必要なないのですが弾き語りやデュエットで伴奏を付ける場合には特に重要になります。

 

体で感じ取る為に1度スローなテンポで5フレットのD7(9th)をボサノヴァ風に弾いてみましょう。右手の親指で1拍目は5弦のD、2拍目は6弦のAを繰返します。同じように左手の中指も5弦、6弦の繰り返しの運動になりますが、この時出来るだけベースの音を伸ばしてみます。即ち拍が変わるギリギリのところで左指を動かすことになりまが、これを繰り返しながら2拍目をやや強めに意識してみましょう。スローなテンポでも左手の素早い動きが要求されます。

 

これが出来るようになったら親指のタッチを気に入るまで調整してみましょう。この基本動作を習得するとスローテンポのボサノバでもしっかりビートを出せるようになります。メトロノームを使ってテンポを落としていくと更に厳しくなりますがスローテンポでもビートが感じ取れるようになるまで練習してみて下さい。

 

スピードを養うためには必ずメトロノームを活用します。アップテンポの曲で次第にテンポが落ちてしまうのは殆どが左手の動きに因るものです。左手のコードチェンジの遅れに右手が引きずられキープできなくなります。アップテンポの曲ではアドリブでコードを変える必要はなく予め決めたコードを充分練習する事が重要です。またアップテンポの曲で開放弦を使うと切れ味が落ちるので多用は禁物です。オスカーの演奏を聴いて頂くとよく分かりますが、本当にシンプルなオープンコードを使用しています。

 

バチーダ奏法その3 (個性)


バチーダ奏法はショーロ、フラメンコ、クラシックなどの奏法より比較的短期間で基本的な技術を身に着ける事が出来ます。

 

それでは何が良いのかと言う問題ですが、これはどの分野でのそうですが先人達から学び自身の耳で選択してしていくしか方法は無いと思います。

 

一言でブラジルのリズムと言っても土地土地で異なります。バチーダ奏法も同様で始めはどの演奏家も同じように聞こえますが、何度も聞き込んでいくうちに彼らの個性やこだわりと言った音が聞き取れるようになります。

 

基本的な技術を身に着けたらそこに留まるのではなく、多くの演奏を聞き込んでいく事が大切になります。

 

そして模倣し自分のスタイルに吸収し、常に改良を重ね、バリエーションを積み上げていくといった作業を繰り返します。

 

丁度パッカッショニストがそうであるように、必要なテクニックを身に着けたらあとは何をイメージできるか?

 

それが最後の課題なのかと思います。

 

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解説

 

 

ホーザ・パッソスのバチーダ

 

バチーダの最高峰のプレーをご紹介し、少し解説しましょう。まずはホーザ・パッソスの非常に参考になるバチーダを聴いてみましょう。



 

2/4拍子、2小節で1パタンのイントロ部分です。多少ぎこちなく聞こえるかもしれませんが、これが私が好きな基本のバチーダです。特徴はこんなところです。

 

@2/4/拍子、2小節を1パターンとした繰り返し。
A拍子の表拍は2小節の頭のところだけ、ここは弱めに。
B1小節の2拍目へのシンコペーションはおよそ16分手前から強めに。
C次の2小節へ繋ぐシンコペーションもおよそ16分手前から弱めに。
D親指のベースはシンコペーションにつられず,1拍目,2泊目のジャスト。

 

私はBでは強いシンコペーションを意識して演奏します。サンバを基盤としたブラジル音楽は2拍子が殆どで、2拍目に強いビートが置かれます。AとBで若干の強弱をつけないと全体が平坦になり躍動感が損なわれます。私が一番苦労したのはDです。どうしてもシンコペーションに親指がつられてしまいました。彼女は繊細なタイムに更にダイナミクスを加え躍動感あふれるバルチード・アウトを表現しています。言葉や譜面では正確に表現できないので、何度も繰り返し聴いて体で掴み取ってください。

 

ジョアン・ジルベルトのバチーダ

次はバチーダの代名詞ジョアン・ジルベルト氏の"O Pato"(ガチョウのサンバ)を聴いてみましょう。



 

殆ど譜面では表現できません。もしこのギターを弾きながら歌を唄っていたとしたら、これはもう神業です。初期のジルベルトはこのように曲にあったリズムやテンポを徹底的に追求したと言われています。シンコペーションも8分、16分とはっきりと使い分けていますし、個々の音の長さも微妙に異なり、そして3本の指が弾くコードのバランスも完璧と言えます。殆ど病気に近いものを感じてしまいますが、未だにシビレてしまう最高のバチーダです。

 

オスカー・カストロ・ネヴィスのバチーダ

惜しくもこの世を去りましたが、私が敬愛して止まないバチーダの天才 オスカー・カストロ・ネヴィスの演奏を2曲ほど聴いてみましょう。

 

2曲目のフェリシダージは亡くなる直前の演奏だと思います。ボリュームが小さいのですが耳を澄ましてお聴き下さい。オスカーが好んで使うリズムパターンですが切れ味、粒立ちの良さが冴える名演です。



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聴いてお分かりの通りオスカーの凄さはスピードにあります。単に速いだけではなく一つ一つの音に微妙にニュアンスをもたせ、ドライブしています。彼は下から上に向かって弦を弾くのではなく、あたかもタンボリンを叩く様に上から突き刺すように弦を弾きます。勿論叩いただけでは音が鳴りませんので指の先端で僅かに弦を引っかけ音を出しています。必死で訓練すれば真似できるようにはなりますが、この絶妙なアーティキュレーションが最後の難関となります。長い間イリアーヌのサウンドを支えてきたオスカーですが、彼の死後、彼女は二人ほど素晴らしいギタリストを引き入れましたが、やはりオスカーには敵いませんでした。ジョー・ヘンダーソンの「Double Rainbow」にこの演奏が収録されていますので、何度も聴きかえして練習してみてください。

 

セバスチャン・タパジョス

サンバのメッカ バイーア出身のジョアン・ジルベルトは「ボサノヴァはサンバなんだ」と言ったそうです。サンバのリズムは「バルチード・アウト」と呼ばれる独特のリズムを特徴としています。それではパルチード・アウトを一聴にしてしてわかるギター演奏をご紹介しましょう。インテンポに入った部分をよくお聴きください。正確なベースの上に複雑なリズムでコードが展開していきます。初めて聴かれた方は大変違和感を覚えた方もいるかもしれませんが、彼らブラジル人にとってこれが日常のリズムと言えるでしょう。ブラジルを代表するギターの名手 セバスチャン・タパジョスの演奏から"トリステーザ"、お聴き下さい。



 

 

バチーダ名人の様々なスタイル

 


前置きが長くなりましたが、実際に私がバチーダの手本としてきた演奏家達の演奏をご紹介します。

 

1人1人微妙に異なるビート感を持っています。その違いを是非とも聴きとって頂き
自分はどれが一番カッコよく感じたか? 

 

それが今あなたが求めているスタイルではないでしょうか?

 

Baden Powell (バーデン・パウエル)

公開サイト検索キーワード Pano pra manga Rosa Passos

サンバの本場バイーア流バチーダの真骨頂ともいえる。ご存じバーデン・パウエルの演奏だが初めて聴かれた方は多少驚くかもしれない。全く滑らかでない強烈なシンコーぺーションによって、あたかも角材がゴトゴト転がるようなこのリズムが彼等の標準であり、体に染みついているビート感だ。何度も聴きかえし、コピーを繰り返し自分のスタイルの一部にしてもらいたい。最もお手本にしてもらいたい演奏だ。
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Rosa Passos (ホーザ・パッソス)

公開サイト検索キーワード Pano pra manga Rosa Passos

本当にギターの上手い女性ボーカリスト。初期のアルバムでは特に素晴らしい演奏を披露している。イントロを聴いただけでリズム感覚、音の粒立ち、切れ味の素晴らしさが伝わってくる。本編ではバイーア出身である彼女らしい、独特なシンコペーション、見事なアーティキュレーションを聞かせてくれる。歌がダメでもこれだけ弾ければギターのプロになれます。
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Oscar Castro Neves (オスカー・カストロ・ネヴィス)

公開サイト検索キーワード Eliane Elias - The Continental

ブラジルの頂点に聳え立つバチーダの名人。今回サンプルにご紹介した演奏はかつての"サントリー”CMソングで取り上げられた イリアーヌのアルバムから "コンチネンタル”。使用しているコードもシンプル、テンポもミディアム、一聴して簡単に聞こえるが、弾いてみると相当難易度が高い。あたかもタンボリンを叩くような微妙なダイナミクス、タッチはオスカーの得意とするところ。惜しくも亡くなりましたが、私の中では彼を超えるバチーダ奏者は未だ現れていません。
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Djavan (ジャヴァン)

公開サイト検索キーワード Djavan - Capim

.ジャヴァンもギターの名人である。特にこの曲「Capim」(草)はコード進行が複雑でこのテンポで歌いながらギター伴奏をつけるのは至難の業。ジャヴァンはあまり細かなアーティキュレーションは使わずに(おそらく)短めの爪と指頭で力強く弾くタイプ。また弦を弾く前に指で軽くミュートする事で切れ味が増す。ボサノヴァというよりサンバ系のギタリストによく見られるタイプ。今回のようにソロで伴奏をつける場合には親指のベースを強めに、上手くコントロールしている。関連記事



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Filo Machado (フィロー・マシャード)

公開サイト検索キーワード Filo Machado - Take 5 - Dave Brubeck

驚異的なスピード感、バリエーションをもつパーカッシブなバチーダ奏法の達人。バチーダ奏者というよりパーカッショニストと呼んだ方が正しいかもしれない。シングル・トーンのソロも素晴らしく、幅広いジャンル 奏法に対応できるGodinのエレガットを多用している。コード展開もジャズをベースにした繊細且つ鮮やかなもので、このテンポでこれだけのコードチェンジに対応し、且つメロディを歌う フィローの芸風は天才と呼ぶにふさわしい。とにかく多くのリズムパターンを研究し、より早く、より正確に、よりパーカッシブにフィジカルを鍛えるしかない。



Bruno Mangueira (ブルーノ・マンゲイラ)

公開サイト検索キーワード Bruno Mangueira & Leila Pinheiro

ミナス出身のブラジル界の巨匠トニーニョ・オルタが得意とする奏法。リズムは訛りの少ない基本的なボサノヴァ、サンバだがコードワークは徹底したジャズを基調としており、アッパートライアッドを多用し、独特な浮遊感を醸し出しつつ、右手は時にアルペジョを使い、美しいコードを飾りたてる。ジャズ出身の方には入り易いスタイルかもしれない。
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Toninho Horta (トニーニョ・オルタ)

公開サイト検索キーワード Soccer Ball Toninho Horta Brasil

トニーニョ・オルタ御大の登場。トニーニョ得意の高速サンバで右手のリズムが大変個性的。親指のベースが突っ込みぎみに聞こえるが実はジャストなタイミング。右手の動きは言葉での説明は難しいが、親指、人差し指、中指&薬指の三本を主体として2小節を1パターンとしている。右手の弾き方をコピーして半年ほど訓練を積むとなんとか形になるが、この演奏位のアップテンポになるとベースが遅れ、テンポがキープできなくなる。更に御大の場合左手のコードワークも運動量が激しく、そう簡単に真似できる代物ではない。当然である。関連記事



MARCUS TEIXEIRA (マーカス・テイシェイラ)

公開サイト検索キーワード Ze Luiz Mazziotti - Mambembe

私が最も好きなタイプで、研究したギタリストだ。とにかく親指ベースが正確で、他の三本の指のバランスも良く、リズムの横揺れ、うねりの少ない、多くの日本人がイメージしているバチーダのスタイルではないかと思う。彼のスタイルを勉強するのであれば ガルコスタが1999年に発表したアルバム(C/D, DVD) 「Canta Tom Jobim」を参考にして頂きたい。今回紹介した映像ではゼー・ルイス・マジオッチのバックを務める初代トリオ・コヘンチに参加している。これからボサノヴァを勉強したい人にはとっておきのギタリストと思う。関連記事



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最後に

 

何故こんな地味なギター奏法が今まで生き続けてきたのか?

 

それはフロントを飾る多くのボーカリスト、演奏家達から
求められているからです。

 

丁度、映画に出てくる主役と脇役の関係によく似ています。

 

これを機会に、もう一度バチーダを見直してサウンドを支配してみては
いかがでしょうか?

 

結構やりがいのある仕事です。

 

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