シェガ・ジ・サウダージ / 想いあふれて | 3人の天才が創造した究極のサウダージ!

 

 

Chega de saudade (想いあふれて)

 


シェガ・ジ・サウダージは実にユーニークな人物達によって創作された。
1人は天才作曲家にして優れたビジネスマン、1人は英オックスフォード大学の留学経験を持つ、酒好き、女好きな国連大使、最後の1人は病的な几帳面さとストイックな性格を持つ歌手兼ギタリスト。

 

ご存じアントニオ・カルロス・ジョビン、ヴィニシウス・ジ・モライス、ジョアン・ジルベルトの三人だった。

 

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歴史的なテイクを早速ご紹介しよう。

 



< アルバムのプロフィール >

1958年に発売されたジョアン・ジルベルトのデビューアルバム その名も「CHEGA DE SAUDADE」。近年発売当時のオリジナル ジャケットでL/P盤、ボーナストラックを含むC/D盤が復刻した。ジャケットも1950年代当時を想わせるクラシカルなデザインでコレクターにとっては待ちに待ったリバイバル盤といえる。ジョビンの働きかけによって、当時無名の歌手であった ジョアン・ジルベルトによる本アルバムが制作された。ボサノヴのァ起源とされる歴史的な名盤。関連記事


公開サイト検索キーワード:YouTube Joao Chega De Saudade 1959

 

 

「シェガ・ジ・サウダージ」の生い立ち

 


まず3人の登場人物について簡単にご紹介しよう。

 

アントニオ・カルロス・ジョビンは青年時代からピアノを習い始め、学生時代には既にピアノ演奏家として収入を得ていた。

 

音楽業界に夢を抱く彼はコンチネンタル・レコードに入社、スタジオ・ワークや編曲の仕事を経て、自らアーティスト、ディレクターとして当時のオデオンレコードに入社するに至った。

 

一方のヴィニシウス・ジ・モライスは外交官を務める傍ら詩作活動を続け、ブラジルを代表する詩人として知られていた。

 

この才能豊かな作曲家と詩作家を結びつけたのが、モライスの戯曲を映画化した名画「黒いオルフェ」だった。

 

この作品でジョビンが音楽を担当しており、この偶然の出逢いによって歴史的楽曲「シェガ・ジ・サウダージ」が誕生し、1958年サンバの女王と謳われたリオの女性シンガー 'エリゼッチ・カルドーゾ' のボーカルによって初のレコードがリリースされた。因みにジョビンは1955年、27歳の若さでエリゼッチ・カルドーゾ初のLP盤「Cancoes a Meia Luz」のアレンジを担当している。

 


「Cancoes a Meia Luz」

ジョビンがアレンジを担当したエリゼッチ・カルドーゾの初のLP版。リオ北部出身のブラジル音楽を代表する不世出の歌手で、その知名度の高さはビリーホリディに例えられるほど。温厚な性格の持ち主で生涯清貧を貫いたと言われ、死に際してベッチ・カルバーニョをはじめとする多くのブラジルの音楽家とファン達が見守る中、葬儀が執り行われた。

エリゼッチ・カルドーゾが歌う シェガ・ジ・サウダージ

エリゼッチ・カルドーゾによる最古の「シェガ・ジ・サウダージ」
をご紹介しよう。

 

公開サイト検索キーワード:
YouTube Chega de Saudade - Elizete Cardoso

 

一世を風靡した偉大な歌手をもってしても、ジョビンを満足させる事は出来なかったようだ。ヨーロッパ音楽やジャズミュージックの影響を強く受けていた彼は古典的なサウンドではなく、より洗練された新しい、都会的なイメージを描いていたに違いない。

 

作曲家の成果は楽譜であり、作詞家のそれは紙に書かれたポルトガル語に過ぎない。これを音楽として世に送り出すためには優れたヴォーカリスト、演奏家の力が必要になってくる。

 

そこで登場したのが最後の男、ジョアン・ジルベルトだった。サンバのメッカ、バイーア出身のこの男は音楽では中々目が出せず、一年余りの音楽修行を経て1955年にリオに移り住んできた。同年ジョビンの耳に止まり二人はリオで顔を合わせている。

 

当時ジョビンはディレクター、作曲家として大きな野望を抱いており、常日頃から音楽家の発掘には余念がなかったのではないか。

 

その縁あってかジョアン・シルベルトはエリゼッチ・カルドーゾのアルバムにギタリストとして参加している。その際、無名のジョアン・ジルベルトは恐れ多くもエリゼッチ・カルドーゾに向かって「この曲は声を張り上げて歌ってはいけない」と注文をつけたそうだ。さすがである。

 

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その当時の貴重な映像が公開されているのでご紹介しよう。

エリゼッチ・カルドーゾのバックを務めるジョアン・ジルベルト

 

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YouTube Elizeth Cardoso & Joao Gilberto zeca louro

 

エリゼッチ・カルドーゾのアルバムが発売された1958年、ジョビンの強い説得が功を奏し ジョアン・ジルベルトによる「シェガ・ジ・サウダージ」が録音され、翌年1959ボサノヴァ音楽の起源とされる歴史的なアルバム「Chega de saudade」 が誕生した。

 

それは天才作曲家、ブラジルを代表する前衛作詞家、そして比類なき天性の美声と独自の音楽スタイルを兼ね備えた音楽家による結晶であり、アントニオ・カルロス・ジョビンの執念の賜物でもあった。発売当初は期待に反して影を潜めたが、ジョアンの演奏スタイルが当時のリオの若者の間で静かなブームを生んだ。

 

サンバの土臭さをアク抜きした、都会的なサウンドが後に「ボサ・ノヴァ」(新しい感覚)と呼ばれる事になり、公開された映画「黒いオルフェ」やカーネギーホールで開催されたコンサート等により急速に世界へと伝播していった。

 

「Chega de saudade」は多くのジャズ・ミュージシャンの耳にとまり、インストゥルメンタルで取り上げられ、英語版「No More Blues」の誕生と共に名実ともにボサノヴァの代表曲として世界が認めるところとなった。

 

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タイトル 「シェガ・ジ・サウダージ」 について

 


名曲の多くは各国語に翻訳され、いくつものタイトルを持つ事しばしである。日本では「想いあふれて」と題され、アメリカでは「No More Blues」のタイトルで知られている。

 

オリジナルは「Chega De Saudade」(シェガ・ジ・サウダージ)だが、大凡(日本語的にはおかしいが)"哀愁はもういらない"という意味だそうだ。日常でポルトガル語に出会う事はめったにないが、このサウダージという言葉だけはよく耳にする。色々調べてみると日本語でいう「郷愁」、「哀愁」、「追想」と言った複雑な情感を一語で表すポルトガル語独特の言葉と書かれている。懐かしい故郷を思い出す時、失った恋人を思い浮かべる時、 この"サウダーヂ"の響きに胸が切なくなり、そして心が癒されるそうである。

 

余談になるが我々がよく口にする「根回し」などは日本語固有の言葉だそうで、アメリカ人は「NEMAWASHI」をビジネス現場で使っているらしい。

 

因みに、邦題の「想いあふれて」は意訳ではあるが、歌詞から伝わってくる主人公の情感といったものを端的に表しており、日本人の私としてはこのタイトルが一番気に入っている。

 

 

シェガ・ジ・サウダージの楽曲

 


印象的なイントロに始まり本題に至るまでの72小節が完璧なメロディーで構成されている。小品が多いジョビンの曲の中では珍しく長尺の曲だ。恋人を慕うサウダージの情感を歌った冒頭の32小節ではマイナー調のメロディーで綴られ、後半部では恋人が戻ってきた喜びを底抜けに明るいメジャーな曲調で表現している。

 

このコントラストが歌詞の情感を見事に増幅している訳だが、もし彼の詩をポルトガル語で感じ取れたのであればこの曲の感動が数倍にも膨れ上がっていたに違いない。

 

音楽的な観点で言えばこの曲はジャズそのものである。ジャズの常套手段であるディミニッシュアプローチ、ツーファイブワン、ドミナントモーションなどが随所に散りばめられていてジャズ演奏家にとっては大変扱いやすい、身近な題材となっている。

 

この曲に限らずジョビンに代表されるボサノヴァがアメリカのジャズシーンを起点として急速に世界に広まった背景にはリズムの珍しさに加え、こういった音楽的な要素も深く関わっていたと考えられる。それでは私の好きなジャス演奏家による「No More Blues」をご紹介しよう。
関連記事

 


Chick Corea & Gary Burton

ジャズの世界でデュエットの最高峰といえばご存じチック・コリア&ゲイリー・バートン。数々の名盤、名演を残し、進化を遂げ今日でも新鮮なサウンドを聴かせてくれる。


公開サイト検索キーワード:
YouTube Chick Gary - Chega de Saudade (Burghausen 2011)

 


Jane Monheit (ジェーン・モンハイト)

ジャズファンにはお馴染みの実力派女性歌手 ジェーン・モンハイト。彼女は大のブラジル好きで過去イヴァン・リンスのアルバム「A quem me faz feliz」では絶品の'Love Dance'を聴かせてくれた。


公開サイト検索キーワード:
YouTube Chega De Saudade - Jane Monheit Rainbow Room

 

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Francesco Buzzurro
(フランチェスコ・ブッゾーロ)


イタリア出身のギタリスト。クラシックを基盤とするギターの名手。クラシックで鍛え上げたテクニックを引提げノリノリのギターソロを披露。最近ようやくアルバムを発表した注目のギタリスト。


公開サイト検索キーワード:
YouTube Francesco Buzzurro: Chega De Saudade

 

 

現代に語り継がれる シェガ・ジ・サウダージ

 


名曲はいつの時代にでも演奏家達によって姿形を変え語り継がれていく。2006年にオスカー・カストロ・ネヴィスが企画制作したDVD 「Casa da Bossa Homenagem a Tom Jobim」からMPB4の美しいコーラスバージョンのコード譜を掲載した。おそらくオスカーのアレンジだと思うが彼らしい印象的なイントロに始まり、マイナー調のコーラス部では大胆なコードアレンジが施されている。

「Casa da Bossa Homenagem a Tom Jobim」
オスカー・カストロ・ネヴィスを中心に企画、制作されたブラジルファン必見のDVD。ホベルタ・サー、サンディー、パウロ・リマ、ルシアナ・メロ、ウィルソン・シモーニャ、ジョルジ・ヴェルシーロなどMPBの錚々たるスター18人を招き、お馴染みのジョビンの名曲を最高のアレンジで紹介している。主役を支える顔触れもオスカーを筆頭にマルセロ・マリア―ノ(bs),テコ・カルドーゾ(Ft)..etc などブラジル屈指のミュージシャン揃い。私にとっては家宝とも言えるDVD。 関連記事 C/D盤 購入はこちら

Chega de saudade By MPB 4

  公開サイト検索キーワード:
Youtube chega de saudade MPB4

 

このような斬新なアレンジに負けることなく見事に調和するMPBのコーラス、歌唱力が素晴らしい。演奏が終わった後のオスカー満面の笑みがこの演奏の素晴らしさを物語っている。MPB特集

 

ブラジリアンが好む典型的なコードチェンジで、イントロ部の開放弦を交えたコードワークはオスカーの得意技だ。メジャーのコーラス部はほぼオリジナルのコード進行であった為割愛した。(キーは原曲とは異なりAm)

 


・指板上の 数字
 2拍子4分音符
・指板下の丸数字はフレットの位置。
・○は開放弦。

 

最後に

名曲は決して時の流れに埋もれる事無く、必ず忘れた頃に新たな顔をのぞかせてくれる。

 

「Chega de saudade」はこの世に音楽がある限り、決して忘れ去られる事のない数少ない名作に間違いない。

 

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