バーデン・パウエル ( Baden Powell ) | ブラジルに燦然と輝く孤高のギター弾き

 

 

ブラジルに燦然と輝く 孤高のギタリスト 

 

  バーデン・パウエル (Baden Powell )

 

 

「孤高」のギタリストとは私が考えたキャッチではない。昔からこのニックネームで通ってきたと記憶している。時には変人と称され、またジョアンジルベルトと並ぶ奇行の持ち主でもあり、そういった背景がこの「孤高」という代名詞を生んだのかもしれない。しかし私が思う「孤高」とはそこではなく、彼のギタースタイルであり、独特なリズム感であり、彼がはじき出すトーンであり、彼ならではの哀愁感にある。決してテクニックが抜けているいる訳ではないが音を聴けば一発でバーデン・パウエルと分かってしまう強烈な個性の持ち主。 正しく「孤高の」のギタリストである。

 


< プロフィール >
<出生名>
Roberto Baden Powell de Aquino
<出生> 1937年8月6日 リオ生まれ。
    2000年9月26日 没
<経歴>: 幼少のころからギターを手にする。10代でプロ演奏家として活動を開始する。作曲家としても知られヴィニシウス・ヂ・モライスとの共作 ビリンバウ、アフロ・サンバやソロで演じられる悲しみのサンバ、宇宙飛行士のサンバは特に有名。ヨーロッパのジャズ・フェスティバルの参加をきっかけに世界のジャズ ファンの耳に止る事となり、彼のギターは世界に伝播していった。酒、タバコ、女性をこよなく愛し プライベートでは多くの奇行、逸話を残している。


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 バーデン・パウエルの思い出

 


もともとジャズから出発した私にとって初めて知る事となったブラジル系 ギタリストがバーデン・パウエルだった。他にもローリンド・アルメイダ、ルイス・ボンファと言ったジャズと接点を持つギタリストは多くいたが、私がどっぷりジャズに浸かっていた1970年代は彼がヨーロッパでアルバムを量産した時代であり日本でも圧倒的な知名度を誇っていた。最初に買った思い出のアルバムが「Solitude On Guiter」(孤独)であり、後にこのアルバムを軸に前後遡って買い漁る事になった。まずはこのアルバムからお気に入りのテイクと、彼がジャズ界に衝撃を与えた セロニアス・モンクの名曲
"Roud About Midnightt" の映像をご紹介しよう。

Solitude On Guiter (1971 )


1971年ドイツで録音されたアルバム。ジョビンの傑作 "君への面影","あなたのせいで"、ジャズのスタンダード ナンバー"いそしぎ"、バーデンのオリジナルサンバ、バラードを含む全12曲。全て彼のギターをフィーチャーしており、ヨーロッパから祖国ブラジルを懐かしむかのような深い哀愁が漂う中期の名盤。

スペシャル プライス版

 

 

収録曲 "ブラジリアーナ" By Baden Powell
公開サイトキーワード: Baden Powell - Brasiliana.wmv

 

 

収録曲 "小さな終着駅" By Baden Powell
公開サイトキーワード: Fim da Linha . Baden Powell

 

 

"Roud About Midnightt" By Thelonious Monk
公開サイトキーワード: Baden Powell - 'Round About Midnight'

 

 

ジャズファンであれば "Round About Midnigh"を知らない方はいないと思う。こちらも奇行、変人で知られるピアニスト セロニアス・モンクの作曲でマイルス・デイビスを始めとした多くのジャズ ミュージシャンに引き継がれてきた名曲。この曲をガット・ギターで、こういったアレンジで演奏するスタイルは珍しく彼を世界に印象づけた決定的なテイクともいえる。ちなみに当時、ピュアなジャズを演奏するブラジリアン ギタリストに エリオ・デルミーロやボラ・セチといった名手もいたが世界的な知名度ではバーデン・パウエルが圧倒していたように思える。どういった経緯でこの映像が制作されたかは不明だが、小指と薬指の間にタバコを挟んで火が指にまわらない間に1曲を演奏するという、いかにもジャズ ファンが喜びそうなシャレた演出だ。

 

冒頭の "ブラジリアーナ"は文句なしの出来栄え。バラードにも定評のあるバーデンのテクニック、独特のシンコペーション、コードワークといった彼の魅力がこの一曲に集約されている。

 

当時の私の中で 問題になったのは "小さな終着駅"と 2曲目に収録されている曲 "CHARA" いずれもサンバの演奏だった。

 

”バーデン・パウエル”ってひょっとして リズム音痴?
これが私の第一印象だった。

 


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バーデン・パウエルから学んだ

 

 初めての パルチード・アウト

 

 パルチード・アウト:ブラジル音楽の根底をなす基本のリズム


当時私の主流の音楽は4ビート ジャズでありL.Aを中心に広がりをみせていたフュージョン(当時は クロス・オーバーと呼ばれていた)であり、その楽しさはパート同士の会話あり、シンクロする美しさ、スリル感だった。

 

しかし "小さな終着駅" の演奏はどうだろう?ドラムはジャストに近いが、バーデンパウエルのギターは全く同期していない。多少のシンコーぺーションであれば大歓迎だが、彼のリズムはまるで角材がガタゴト坂を転がるようなどこか角ばったリズムでドラムのリムショットと少しずつずれている。バーデン・パウエルのリズムはおかしい!これが当時の感想で、要するに少しも彼のリズムを理解できなかった訳である。

 

初めてバーデン・パウエル聴いてから10年近く経ち、ブラジル音楽に興味を持ち、本場ブラジルで修業したパーカッショニストとも知り合い、少しずつブラジルの音楽が分かり始めた頃だった。そういえばと思い、眠っていたこのL/Pを聴いたとたん、なるほどこれが”パルチード・アウト”だったのかと初めて納得した。感性も芽生えていたのか、メチャクチャかっこよく感じた事を覚えている。

 

買った当初は居心地の悪さが先に立ち気付かなかったが、よく聞くと彼は殆ど全ての音をシンコペーションしている事がわかった。件のパーカショニストによると「このシンコペーションでブラジル人は腰が動くんだ」だそうだ。

 

言われてみれば確かに腰が動く。南米のリズムを体感するのに数年かかった事になる。それからと言う物は兎に角見よう見まねでタイムをわざとずらし、試行錯誤を繰りかえしながら、なんとなくパルチード・アウトを表現出来るようになった。

 

一言でパルチード・アウトと言っても土地土地で微妙に異なるそうだ。バーデン・パウエルが影響を受けたバイーア州は歴史的な背景からアフロ系民族が多く、リズムも独特で訛りも強烈である事が後にわかった。

 


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 バーデン・パウエルのギタースタイルについて

 


単にギターを速く、正確に、そして流暢に弾くというテクニックだけを論ずるのならば、バーデン・パウエルと並ぶ、或いは凌ぐギタープレイヤーはブラジル ショーロ界にはゴロゴロいる。

 

ハファエル・ハベーロ、ヤマンドゥ・コスタ、ホジェリオ・カエターノ、マルクス・タルデッリ、アレサンドロ・ペネッシ、ウリーセス・ホーシャ 等がその筆頭格だろう。

 

彼の音楽的な背景を少しお話しする。ヴァイオリン奏者を父にもつバーデンは幼いころからギターを手にし8歳の頃にはあのハファエル・ハベーロの師としても有名なショーロの歴史的な演奏家ジャイミ・フローレンシの手ほどきを受けている。その後10歳でリオのエスコラ・ヂ・サンバに在籍し、10代半ばでプロのギタリストとして活動を始めている。音楽的環境を考えれば大変恵まれていたと思われるが、反して彼のギターにはアカデミックな匂いが全く感じられない。

 

特に右手の使い方はクラシックでも、フラメンコでも、他のショーロ演奏家とも違う。長い指で弦の下側から上に向かって強力に引っ掻くような感じで弦を弾いているし、速いパッセージでもアルレイアを用いる事も多々あるようだ。またショーロの演奏家に見られる親指の高速ソロも聴いた記憶はなく、セッチ・コルダス(7弦ギター)を弾く姿を見た事が無い。

 

私の想像だが一通りの基本は学んだものの、ある時から我流に転じていったのではないか? 或いは単調な繰り返しの練習が苦手で、演奏活動の現場を通してスタイルを確立していったのではないのか? いづれにせよ彼が弾きだすトーンは個性的で唯一無為である。「2流の正統派は1流の我流には勝てない」という格言を聞いた事があるが、まさにバーデン・パウエルを言い当てている気がする。

 

ここにバーデン・パウエルの系譜を継承しつつ、成長を遂げたギタリストがいる。彼の息子のマルセル・パウエル (Marcel Powell )だ。父親のタッチをそのまま踏襲し、更に進化を遂げた彼の演奏をご紹介しよう。

 

  公開サイト検索キーワード: Violao Vadio - Marcel Powell

1984年生まれ。現在34歳を迎えるフランス生まれのブラジル人。2013年に来日し、父をも凌ぐ熱いギタープレイが好評を博した。既に10枚のアルバムを発表。今後の活躍が注目、期待される若手ギタリストの一人。

 


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  私の好きなバーデン・パウエルの名曲

 

   「Berimbau」 ビリンバウ


バーデン・パウエルは作曲家としても有名だが、ギタリストの方なら「悲しみのサンバ」、「宇宙飛行士のサンバ」、そして「ビリンバウ」を挙げるだろう。

 

今回ご紹介する「ビリンバウ」はバーデン・パウエルと深く関わった詩人ヴィニシウス・ヂ・モライスが歌詞をつけ、ブラジルをはじめジャズの世界でも広く取り上げられてきた名曲。多少ジャズっぽくコードを付けてみました。

 



・指板上の 数字
 2拍子4分音符
・指板下の丸数字はフレットの位置。
・○は開放弦。

 


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 バーデン・パウエルの名曲

 


バーデン・パウエルは作曲家としても知られ、彼の作品を今日でも多くの演奏家達が取り上げている。その中でも私のお気に入りの映像をご紹介しよう。

 

Deixa


-- セルソ・フォンセカ (CELSO FONSECA) --

 

長い間MPB界で活躍してきた セルソ・フォンセカ。ブラジルファンならご存知の方も多いはず。フォンセカらしい都会的なアレンジの"Deixa"。


公開サイトキーワード
Deixa, com Celso Fonseca. Som Brasil

 

 

Canto de Ossanha, Consolacao, Berimbau, Afro Sambas メドレー


-- トリオ・バル (Trio Baru) --

 

日本ではまだ馴染みのない名前だが ブラジルでは人気のある実力派のトリオ 'トリオ・バル'。強力な2ギターとパンデイロの構成で素晴らしいアレンジと演奏を聞かせてくれる。


公開サイトキーワード
Trio Baru - Afro Sambas (Baden Powell & Vinicius de Moraes)

 

 

Berimbau


-- セルジオ・メンデス --

 

古くに彼らのレパートリーに加わった曲だが、ライブでは滅多に御目にかからない曲。分かり易いシンプルなアレンジだがこの曲の本質をきっちりと捉えた本格的なポップ調のサンバに仕上げている。


公開サイトキーワード
Sergio Mendes 2006 Berimbau

 

 

 最後に

 


バーデン・パウエルが残した莫大な遺産、功績は、
到底1ページでは語り尽くせない。

 

今後も少しずつ追記し、彼の偉大な業績に迫りたいと思う。

 

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