ブラジル近代ポップス 影の立役者
MPB4(エミ・ペー・ベー クアトロ)
長きに渡りブラジルMPB界に君臨し、ポップミュージックを芸術の域にまで高めた4人のコーラスグループ 「MPB4」をご紹介しよう。
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MPB4 の歴史と音楽性について
抜群の実力と高い音楽性を誇るコーラスグループだが、とにかく日本での知名度は低い。かなりの音楽好きな私の友人でも彼等を知る人は皆無である。本国ブラジルでの知名度については定かではないが、彼らの高い芸術性に反して知名度の低さがひっそりと咲く月見草のような、どこか神秘的な魅力を感じてしまう。
学生時代に結成したボーカルグループだが下積み時代を経て、シコ・ブアルキのバックコーラスとして表舞台に登場した。1960代当時、シコ・ブアルキはその端整な顔立ちから圧倒的な人気を誇り、コンサートチケットも1日で完売してしまう程の人気スターだった。それを皮切りにトッキーニョ、ナラ・レオン、ミルトン・ナシメント、ホベルト・メネスカルといったMPBのアーティスト等と共演を重ね、次第に音楽家の間でその実力を認めらるようになった。
MPB4の最大の魅力はそのヴォイシングにある事は言うまでもない。ジャズのホーンアレンジなどで用いられるセクショナル・ハーモニーをいち早く取り入れ、カウンターラインを織り込んだクローズ・ヴォイシングによる繊細で厚みのある主旋律、幅広く鮮やかなオープン・ヴォイシング、力強いユニゾンを巧みに組み合わせたダイナミック且つ色彩豊かなコーラスは聴き手を釘付けにする。
凡人であれば歌うだけでも困難なコーラスに加え、自ら楽器を演奏し文字通り4人だけで空間を支配してしまう。並みの人間であれば編曲、コーラス、演奏を完成するのに1曲だけでも数か月を費やすであろう。彼等はそのような作業を半世紀に渡って繰り返し100を優に超えるレパートリーを完成した。
百聞は一見にしかず、彼らの素晴らしいコーラスを第二期MPB4の映像からご紹介しよう。
既にオリジナルメンバーの2人はこの世を去ってしまったが、強力な後釜の
参加によって現在第3期を迎えている。
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MPB4 第一期 オリジナル メンバー (1965〜2004)
初代オリジナルMPB4の貴重な映像をご紹介しつつ、MPB4のメンバーをご紹介しよう。
1970年代の脂の乗り切ったMPB4を見事に捉えた映像。写真左からアキレス、ミルチーニョ、フイ・ファリア、髭のマグロ。曲はブラジル ショーロ界を代表する重鎮 ピシンギーニャの名曲 「Lamento」(哀歌)。クラシカルなショーロをMPB4の高い音楽性と美しいハーモニーで再現した逸品。コード譜掲載
マグロ (Antonio Jose Waghabi Filho) 1943/11/14〜2012/8/8
ボーカルはもとより、作曲、オーケースレーションなど音楽理論にも精通し、パーカッション、ピアノ、ヴィブラフォン、クラリネットを操るマルチ・プレイヤー。学生時代 にミルチーニョとバントを結成、当時民族文化センター(CPC)で働いていたフイとアキレスに出会いMPB4が誕生した。グループの音楽的原動力とも言える重要人物でボーカルパートは3声を担当。2012年68歳の若さで惜しくもこの世を去った。
フイ・ファリア ( Ruy Alexandre Faria ) 1937/7/31〜2018/1/11
2004年、著作権の問題からミルチーニョと対立しMPB4を脱退している。ボーカルは1声を担当し、透明感溢れる爽やかな歌声はMPB4 最大の魅力の一つ。結成初期にはギターやパーカッションを演奏する姿もしばしば見られた。2004年脱退後、彼のポジションはダルモ・メディロス(Dalmo Mederios)に引き継がれた。脱退後2007年に法科大学を卒業、弁護士として活躍した後、本年(2018) 81歳でこの世を去った。
ミルチーニョ( Milton Lima dos Santos Filho ) 1943/10/18 〜
大学時代にマグロと知り合いその後大学を中退、本格的な音楽活動を開始した。ピアノ教師を母に持つ彼は幼少の頃にはハーモニカをおぼえ、後にギンガも師事したと言われるショーロギター界の重鎮 "Jodacil Caetano Damaceno" からクラシック ギターの手ほどきを受けている。MPB4では殆どバチーダに徹しているがその腕前は折り紙つきだ。作曲、ボイス・アレンジにも才能を発揮し、ボーカルパートは4声を担当している。
アキレス ( Aquiles Rique Reis ) 1948/5/22 〜
オリジナル・メンバーの中で最年少のアキレスがMPB4に参加したのは高校生時代だった。卒業する迄アキレスはフイの元に預けられ、フイが個人教師を務めるなどして卒業させたといわれている。楽器は主にパーカッション、ボーカルパートは2声を担当。ビートルズに例えればジョージ・ハリスンといったところだろうか、残されている映像からはかなり控えめな印象を受ける。フイを始めとするメンバーが高校生のアキレスを離さなかった事を考えると彼の才能がよほど抜きん出ていたのに違いない。
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MPB4 第二期 (2004〜2012)
ダルモ メディロス( Dalmo Medeiros ) 1951/11/26 〜
フイ・ファリアが脱退した後彼の後釜に抜擢された。リオデジャネイロ出身のカリオカで二十歳の頃から多くのボーカルグループに参加している。79年には実力派コーラスグループ「Ceu da Boca」に参加し多くのコンサートを経験。更にはエリス・ヘジーナ、ナラ・レオン、カエターノ、シコ・ブアルキ、エドウ・ロボといった大物たちのレコーディングにも参加している。どこかフイ・ファリアを想わせる顔立ちだが、瑞々しく透明感あふれるヴォイスはフイに勝るとも劣らない。第二期MPB4の傑作「"40 anos ao vivo"」からホベルタ・サーとの共演映像をご紹介しよう。
2006年結成40周年を記念して開催されたコンサートのライブ映像。シコ・ブアルキ、ミルトン・ナシメント、カウビー・ペイショート、ホベルタ・サーなど、馴染みの深いビッグアーティスト等と MPB4のコラボレーションが思う存分楽しめる最高傑作。
※ジャケット左からマグロ、ダルモ、アキレス、ミルチーニョ
MPB4 第三期 (2012〜現在)
2012年この世を去ったマグロの穴を埋めたのが パウロ・マラグチ(Paulo Malaguti)だった。マグロの訃報を切っ掛けにパウロ・マラグチを知る事となったが、彼のキャリアについて少ご紹介しよう。
ブラジルの作編曲家&ピアノを中心とするマルチ楽器奏者でロン・カーターなどアメリカのジャズ・ミュージシャンとの共演経験を持つ、MPB4には打って付けの才人である。アウグスト・マルチンス(Vo)と制作したジョビン集 デュオアルバム「PIANO VOZ E JOBIM」から"Insensatez"のライブ映像をご紹介しよう。彼のような一流アーティストが参入すること自体、MPB4のレベルの高さを証明している。
MPB4 最高のステージ ベスト 3
最後にMPB4 最高のおすすめ映像まとめてご紹介しよう。
飾らない、ふだん着な装いとは裏腹に驚きのアンサンブルがあなたのハートを圧倒します!
お馴染みアントニオ・カルロス・ジョビンの不滅の名曲 3曲続けてお楽しみください。
白と黒のポートレート
この曲のMPB4を聴きたかった。2コーラス目のヴォイシングは鳥肌もの!!
ジェット機のサンバ
MPB4のジェット機のサンバは初めて。興奮しました!2コーラス目へのブリッジ、コーラス、エンディング どれをとっても最高の出来栄え!
コード譜掲載
シェガ・ジ・サウダージ(想いあふれて)
もう何も語りません。ロマンチックな極上のサウダージ!
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最後に
結成以来半世紀が経ち、メンバーの2人がこの世を去り、現在のメンバーも
高齢を迎えている。
まさに瀕死の淵に立たされたMPB4だが、彼らの遺産を継承しつつ
新たなMPB4を創造する若者達の登場に期待したい。
私の目の黒いうちに。
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