2019年7月6日、ジョアン・ジルベルト氏は88年の生涯を閉じました。
ここに、心から哀悼の意を捧げます。
ジョアンが生んだボサノヴァの歴史
ジョアン・ジルベルト(Joao Gilberto)
ボサノヴァ を創造した一人の完璧主義者
ジョアンジルベルトの魅力は天性のヴォイスと卓越したギター演奏にある事は言うまでもない。しかし彼のソフトな語り口や軽快なリズムから生まれる心地よいサウンドは、それとは裏腹といっていい彼の人格、病的とも言える潔癖主義に支えられている。彼の音楽の素晴らしさは万人が認めるところだが、その美しさの裏に潜む人間" ジョアン・ジルベルト" について少し触れてみたい。
<プロフィール>
出生名:
Joao Gilberto Prado Pereira de Oliveira
出生日:
1931年6月10日 (2019年7月6日死去)
出生地:
ブラジル バイーア州
経歴
サンバ歌手を目指し音楽活動を開始するもののヒットに恵まれず苦難の時代を経て 独自の音楽スタイルBossa Novaを生み出す。1962年アメリカ カーネギーホールで開催されたボサノヴァ コンサートの成功をきっかけに米国に進出。1963年にスタン・ゲッツとの共演アルバムGetz/Gilbertoの大ヒットと共に一大ボサノヴァブームを巻き起こす。2003年の初来日を皮切りに3度の日本公演が開催された。
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ジョアン・ジルベルトの芸術
音楽に限らず物事を創りあげる作業では創造者の人格が強く反映される。
ボサノヴァは誰でも気軽に楽しめる大衆音楽だが 完全主義者 ジョアン・ジルベルトが創造したボサノヴァは一味も二味も違う。それは芸術の域に達している。
手元にある資料と映像から浮かび上がってくる彼の人物像について
少しお話ししたい。
まずはジョアン・ジルベルトの初期の映像をご覧頂きたい。
1965年に発表されたドリヴァル・カイミの名曲
「Samba da minha terra 」の演奏風景から。
検索キーワード
samba da minha terra Lawrence Sarabia
映像を見ないでもう一度演奏を聴いてみて頂きたい。ジョアンの囁くような軽妙な歌声に心を奪われてしまう。
しかし実際の映像はどうだろう。笑顔など一つも無い。笑顔どころか音楽を楽しんでいる様子など全く感じられない。時折眉をしかめ、険しい表情すら浮かべている。
聴き手にとっては心地のよい音楽だが、その実 ジョアンは大変忙しい創作作業に追われている様子だ。
右手について言えばベースを正確に弾く為に親指はきちっと反り返り、3本の指が同じ角度で弦に触れるようアングルを保っている。音の長さ、タッチにこだわる指先は見ているだけで彼の神経質な性格が窺える。
楽なコードに変えて歌に専念すればとも思うが、それはアマチュアの発想で美を徹底的に追求するジョアンにその選択肢はない。挙句、目線は終始ギターの指板にくぎ付けになる。
彼は曲ごとにベストなテンポ、キー、コード、そしてリズムの細部に至るまで緻密に計算しつくし、幾度となく練習を積み重ね、そしてその結晶を我々は聴いているのである。彼にとってアドリブなどという即興演奏は全く意味がない。一分の隙もなく緻密に計算され尽くした音楽こそが、彼が求める芸術の姿だ。
楽しそうに笑いながら演奏するクラシック・ギタリストなど見たことがない。弾いている表情は真剣そのものだ。
お分かりの通り、ジョアン・ジルベルト彼の音楽に対する姿勢はクラシック演奏家となんら変わりはない。。
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後期のステージでは微笑む穏やかな表情をみせている。指の動きも歳には勝てず切れ味が衰えている。そんな中、彼なりの新境地を見出したのかもしれない。
ジョアン・ジルベルトのギターテクニック
ジョアン・ジルベルトの初期のアルバム
「The Legendary Joao Gilberto」に収録されているギター演奏
「Um Abraco no Bonfa」から彼のギターテクニックをご紹介します。
アルバム : The Legendary Joao Gilberto
解説
ジョアン・ジルベルトのアルバムで1枚選べと言われれば間違いなくこれを推薦する。初期のアルバム3枚を1枚に集めた全38曲が収録されている。ジョアン自身の曲を含め、アントニオ・カルロス・ジョビン、カルロス・リラ、ドリヴァル・カイミ、ルイス・ボンファなど、名だたる作曲家の名曲のオンパレード。ジョアンのヴォイスも瑞々しく最高のコンディションで録音されている。ジョアン自ら作曲した「Um Abraco no Bonfa」では最高のギターテクニックを聞かせてくれる。1曲目はボサノヴァ誕生の代名詞でもある「Chega De Saudade」(想いあふれて)。
まずは彼の演奏をお聞き下さい。
検索キーワード:
Joao Gilberto - 36 - Um Abraco no Bonfa
ジョアン・ジルベルトの巧みな演奏テクニックが凝縮されている。ベース音のタイム、弦を弾く3本の指のバランス、細かなアーティキュレーションなど、バチーダの要素が見事に完成されている。
一聴して簡単そうに聞こえるかも知れないが、ネック幅の広いガットギターをセーハをしながらプリングオフでメロディーを弾き、且つ正確にベースを刻む技術は簡単ではない。間違わずに弾くだけではまだまだ。しっかりドライブしないといけない。
Chorus部分のベース音に注目して頂きたい。まるでスルドにも似た
(ウッ ドゥーン、ウッ ドゥーン..)パルチード・アウトを醸し出している。
左手のポジション移動も素早い為、音の切れ目も短くベースも和音も十分伸びきっている。
私事で恐縮だが当初この曲をコピーしてメトロノームをバックに試みたが全くダメだった。その通りに弾いているつもりだが絵にならない。何度も何度も繰り返し聴き返し、やっとの事でジョアン・ジルベルトのギターテクニックを再現できた。ボサノヴァを始めて2年目の事だった。
彼は「ボサノヴァはサンバなんだ」と語ったと言われている。それは単に言葉だけではなく、このような細かい訓練を積み上げたジョアン自ら体現していた。
どうやったらギター1本でサンバが弾けるのか?そんな事を考えながら姉の家の風呂場で日夜特訓に励んでいたのだろう。
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この曲のコードを載せた。このポジションでベースとメロディーをカバーできる。タブ譜の為細かいタイムは音源を聴きながらご確認頂きたい。
根性のある方は是非挑戦してみて下さい。
・指板上の 数字
2=2分音符 1=4分音符 ♪=8分音符
・指板下の丸数字はフレットの位置。
・○は開放弦。
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バチーダの名人たち
バチーダの名人達の演奏をご紹介しよう。
ジョアン・ジルベルトの名演
先に紹介したジョアンのアルバムに収録されている
「O pato」。計算しつくされた完璧なバチーダ。
彼のテクニックの全てがこの1曲に集約されている。
検索キーワード:Joao Gilberto - 04 - O Pato
Rosa Passos (ホーザ・パソス)
スカートを履いたジョアン・ジルベルトと呼ばれるだけあってボイスも個性的だし、ギターも相当うまい。このテイクを聴いたときアルバムに参加していたギターの名手ルーラ・ガルヴァオンの演奏だと思っていたが、彼女が弾いていると知って驚いたことを憶えている。
検索キーワード:Rosa Passos- E Luxo So
マルコス・テイシェイラ(Marcus Teixeira )
フロントを飾るのは別ページでも紹介した
ブルーノ・マンゲイラ。
彼の後ろで強力なバチーダを刻むのが今回の主役
マルコス・テイシェイラ。
検索キーワード:Bruno Mangueira | Samba pro Toninho (Bruno Mangueira)
オスカー・カストロ・ネヴィス
惜しくもこの世を去ったバチーダの達人。
彼ほどの名手は今後も現れることはないだろう。
マシンガンのようなバチーダをご覧あれ。
検索キーワード:Joe Henderson - Once I loved
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ジョアン・ジルベルトの作品
彼の長いキャリアのわりには作品が少ない。冒頭で掲載したアルバム 「The Legendary Joao Gilberto」と併せ、私が推薦するベストアルバムをご紹介しよう。これだけ持っていればお腹一杯になる位 ジョアンの世界を満喫できる。参考までに私の好きなトラックを1曲ずつ公開サイトからご紹介する。
三月の水(Aguas De Marco)
ジョアン・ジルベルトの真の姿を知る上で貴重なアルバム。彼が追求したスタイルの全てがここにあります。
試聴サイトキーワード:Joao Gilberto - Aguas de Marco
彼女はカリオカ(Ela e Carioca)
アメリカでのボサノヴァブームが去った後彼は一人メキシコに流れ落ちた。アメリカのビジネス界に疲れたのかここでは彼本来の姿を取り戻し、伸び伸びと演奏している。
試聴サイトキーワード:
Joao Gilberto - De Conversa Em Conversa
イマージュの部屋(AMOROSO)
ジョアン40半ばの中期の傑作。トム・ジョビン、ノエル・ホーザの曲をはじめベサメ・ムーチョ等 名曲揃い。ご紹介する"Zingaro"はジョビン作"白と黒のポートレート"。エリスと並ぶ最高のテイク。
試聴サイト キーワード:Joao Gilberto - Zingaro
Joao
ジョアン60歳の作品。歌もギターも円熟の域に達している。「イマージュの部屋」と同様、アレンジも素晴らしくライトな雰囲気の中にジョアンの良さを存分に味わえる。後期の作品では一押しのアルバム。
試聴サイトキーワード:Joao Gilberto- Rosinha
最後に
ジョアン・ジルベルトを評論する事など恐れ多いと思うが
彼のギタースタイルを学ぶ過程でひしひしと伝わってきた
ジョアン・ジルベルトの人物像について想像も交え投稿してみた。
次回は私が推薦するジョアン・ジルベルトの作品ついて
詳しく ご紹介していきたいと思う。
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